連載小説『消える会社、残る原稿』 見積書に、止める時間を書く
本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。
木曜の夕方、帆足芙美は部品メーカー向けの見積書を、三度目に印刷した。
一枚目には、採用ページ制作。二枚目には、取材・原稿確認。三枚目には、公開前確認・差戻し理由の記録。
三枚目だけ、金額の横に説明文が付いている。
条件・勤務の選び方・発言の範囲に差異がある場合、公開を止め、確認事項と再開条件を整理する。
「止める時間、と書くんですね」
小日向が言った。
「止めるための時間ではありません」
帆足は訂正した。
「止めたままにしないための時間です」
机の反対側では、木崎が舟木から届いた確認資料を読んでいた。早番に間に合う交通手段は、曜日によって違う。交替制へ入る判断は、入社後すぐではないが、繁忙期には早まることがある。品質確認の教育担当は固定ではなく、工程の空きによって変わる。
原稿に書けることと、採用時に個別に確認すべきことが、ようやく分かれ始めていた。
田名部は、AI会社へ渡す試験用の確認表を開いた。会社名、職種名、人数、時刻、個別の発言はすべて外してある。残るのは、確認の順番と、差異が見つかったときの扱いだけだった。
「これで、向こうは何を評価できるんでしょう」
「原案が、どこで止まるべきか」
小日向が答えた。
「ただし、止めるかどうかは私たちが決める。試験では、同じ不足を次の原案で見つけられるかだけを見る」
木崎は見積書の三枚目を取った。
「顧客には、もっと普通の言葉で言いましょう」
帆足が少し笑った。
「普通の言葉にすると、無料になります」
「無料にしない言葉を探す」
木崎は、説明文の下に短い見出しを加えた。
公開前の確認設計。
完成稿を作る前に、何を確かめ、どこで止め、誰へ戻すかを決める作業。間違いを見つけたときに、ただ赤字を入れるのではなく、次に確認すべき順番まで残す作業。
舟木から電話が入ったのは、その直後だった。
「見積書、読みました」
スピーカー越しの声は、最初の面談より遅かった。
『正直に言うと、制作費が増えると思いました。でも、前に辞めた人の採用費を考えると、同じことを繰り返すよりは安いかもしれない』
木崎は何も言わずに聞いた。
『まずは、この形でお願いします。ただ、公開日は決めない。総務の確認が終わって、現場の三人にも原稿を見てもらってからにしたい』
帆足が、そっとペンを置いた。
「承知しました」
木崎は答えた。
通話が切れると、田名部が見積書を見た。
「最初の顧客、買ってくれたんですか」
「まだ、確認設計を買ってくれただけ」
木崎は言った。
「でも、それで十分、次へ進める」
小日向の画面には、AI会社からの返信が届いていた。匿名化した確認表と、差異が見つかったときの分岐を使うなら、試験を始められるという。
その末尾に、小さな質問が一つあった。
試験で見つけた不足を、どこまで顧客へ説明するか。
木崎は、見積書の見出しを見た。
公開前の確認設計。
次に売るべきものは、止めた理由だけではない。
説明する範囲そのものを、顧客と決める仕事が待っていた。
本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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