連載小説『消える会社、残る原稿』 質問だけでは、足りなかった
本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。
水曜の午後一時、田名部周は部品メーカーの休憩室で、紙コップの水を机の端へ寄せた。
製造、品質確認、出荷準備から一人ずつ。舟木が選んだ三人は、面談の目的を聞いてから来ている。採用ページに名前や発言を載せるためではない。これから入る人に、仕事を誤解なく説明するための確認だ。
最初に来た製造担当の男性は、確認表を見て言った。
「質問はいいけど、これだけだと夜のことが抜けるね」
小日向は顔を上げた。
交替制の有無。勤務開始時刻。教育期間。確認表には、似た項目が並んでいる。
「夜勤がある、では足りませんか」
「最初から入るわけじゃない。忙しい時期に、慣れた人が抜けたときだけ頼まれる。断れない空気があるかどうかは、勤務表を見ないとわからない」
田名部は、その言葉をそのまま書かなかった。誰かを責めるための話ではなく、募集に必要な条件を探すための話だ。
「入る前に、どう書いてあれば選べますか」
「交替制に入る可能性があること。いつからとは約束できなくても、判断する時期があること」
次の品質確認担当の女性は、教育の欄で手を止めた。
「教育あり、も違うかな」
「どこがですか」
「教える人が毎日いるわけじゃない。検査の基準は覚えるまで時間がかかる。でも、急いでいると横で見て覚えて、となる」
確認表は、質問を増やすためのものではない。答えの形を、先に決めすぎないためのものなのだと、小日向は思った。
最後に出荷準備の担当者が来た。早番の開始時刻を聞くと、彼は苦笑した。
「時間だけなら六時です。でも、車がないと来にくい。バスは間に合わない日があるから」
田名部は窓の外を見た。工場の門から停留所まで、歩けば十分以上はかかる。求人原稿には駅からの距離を書ける。だが、早番に間に合う交通手段がないことまで、地図だけでは伝わらない。
面談が終わったあと、小日向は空欄の確認表を閉じなかった。
「項目を増やしますか」
田名部が聞いた。
「増やす前に、順番を変えます」
小日向は、最初の行を消した。
業務内容。
その上に、新しく書く。
入る前に知っていれば、選び方が変わること。
帆足は、その文を見てから、ゆっくり首を振った。
「それだけだと、聞かれた側が気を使う。会社にとって都合の悪いことを言わせる質問になるかもしれない」
「では、どう聞けば」
帆足は、紙を自分のほうへ引いた。
「『最初の一か月で、説明と違うと思われやすいことは何ですか』。会社にも現場にも聞く。答えが違ったら、そこを原稿に戻す」
田名部が笑った。
「質問だけでは足りなかったですね」
「質問は残す」と帆足は言った。「誰に聞くかも残す」
夕方、舟木との確認会で、木崎は三人の発言を要約して伝えた。個人が特定される言葉は外し、勤務の選び方に関わる点だけを整理する。
舟木は、早番の交通手段の話で黙った。
「採用ページに、そこまで書くんですか」
「書くかどうかは、御社が確認してください」
木崎は答えた。
「ただ、聞かなかったことにして、一律に通勤可と書くことはできません」
舟木は、しばらく確認表を見ていた。
「バスの時刻を、総務に調べさせます」
その答えは、原稿を一文字も進めなかった。
けれど、小日向は進行欄に「確認待ち」と書いた。急ぐために埋めるべき空欄と、急ぐからこそ残すべき空欄が、少しだけ見分けられるようになっていた。
本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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