第9話 止めた理由を、先に書く

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連載小説『消える会社、残る原稿』 止めた理由を、先に書く

本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。

金曜の午後三時、帆足芙美は見積書の空欄に、これまで入れたことのない項目名を書いた。

公開前確認・差戻し理由の記録。

文字を打ち終えてから、少し長すぎると思った。けれど短くすれば、何をする時間なのかが消える。

机の向かいで木崎は、榎並とのオンライン打ち合わせ用に画面をつないでいた。今日の相手は榎並だけではない。駅前店の情報を使わずに試すなら、最初の顧客へ何を渡し、何を受け取るのかを、編集室の側から先に決めなければならない。

「止めた原稿を成果物にする、と言われても」

帆足は見積書を回した。

「完成稿がないのに、何にお金を払うのか。顧客がわかる言葉にしないといけません」

田名部は、空欄の横へ顔を寄せた。

「差戻し、だと怒られた感じがする」

「怒らせないために、理由を消す?」

「そうじゃない。顧客が自分で直せる形にする」

田名部は紙の余白に、三行を書いた。確認できたこと。確認できなかったこと。公開しないと決めた理由。

小日向が、そこへ四行目を足した。

「次に確認する順番」

木崎は四つの行を読んだ。完成した原稿の代わりに渡すのは、失敗の報告書ではない。次に同じ場所で迷わないための地図だ。

画面の中で、榎並がうなずいた。

『私たちも、その形を想定していました。ただ、止めた理由だけを集めると、AIが避けるべき言葉の一覧になりやすい』

「一覧にしないために、確認の順番も出します」

木崎が答えた。

『誰に聞くか、どの資料と照らすか、いつ公開を止めるか、ですね』

「はい。答えを渡すのではなく、答えを確かめる手順を残す」

榎並は、少し考えてから言った。

『それなら試験案件は、最初から公開を急ぐ会社にしたいです。急いでいるからこそ、確認を省く理由が生まれるので』

帆足のペンが止まった。

急いでいる会社。

駅前店のことを思えば、その言葉だけで断りたくなる。だが、急いでいる依頼を避け続ければ、編集室が必要になる場所から遠ざかることにもなる。

「急いでいること自体は断りません」

木崎は言った。

「ただし、公開日を先に約束しない。確認できた範囲で公開できるかを決める、と契約の前に伝えます」

打ち合わせの終わりに、榎並は候補を一件だけ送ると言った。地域の部品メーカー。採用責任者が、来月からの増産に備えて急いでいるという。

通話が切れると、帆足は見積書の金額欄を空けたままにした。

「ここは、まだ決めないんですね」

小日向が聞いた。

「確認に何時間かかるかは、案件を見ないと決められない。でも、項目があるだけで、無料の手間ではなくなる」

田名部が四行のメモを見た。

「止めた理由を、先に書く。変な仕事ですね」

帆足は笑わなかった。

「止めたあとで理由を探すよりは、ずっとましです」

夕方、木崎の端末に候補先の資料が届いた。会社名はまだ伏せられ、所在地も市内としか書かれていない。担当者の名前だけが、本文の末尾にあった。

舟木啓介。

木崎は、その名前の下に小さく注記を付けた。

初回面談前。公開案件として扱わない。

急ぐ会社のために、急いで受けるわけではない。

その一文を、最初の確認項目にすることから、試験は始まった。


本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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