連載小説『消える会社、残る原稿』 正しい原稿を、誰が引き受ける
本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。
月曜の午前十一時、部品メーカーの小会議室には、舟木と総務担当者、製造現場の責任者が座っていた。
田名部の前には、まだ見出しのない三枚の原稿用紙がある。窓の向こうでは、フォークリフトの警告音が遠くで鳴っていた。
総務担当者は就業案内を、現場責任者は手書きの教育表を持ってきている。同じ勤務条件を確かめる会議なのに、二人の資料には共通の版番号も日付もなかった。
最初に確認したのは、交替制へ入る時期だった。
現場責任者は「習熟後」と答え、総務担当者は「原則として入社三か月以降」と答えた。
「三か月で決まっているんですか」
帆足が聞くと、二人の視線が舟木へ向いた。
舟木は手元の就業案内をめくった。
「決まりではありません。採用時の説明では、目安として使っています」
田名部は原稿に書きかけた「三か月後」を消した。
正確な数字を聞けたと思った瞬間、それは慣習に戻った。
田名部は消した跡の上に「個別判断」と書いた。だが、誰がいつ判断するのかまではまだ空白だった。読みやすく整えれば整えるほど、その空白は見えなくなる。
次は早番だった。開始は午前六時。公共交通で間に合わない日があることは確認できたが、総務担当者は通勤方法を応募者個人の事情だと言った。
「会社として説明するのは開始時刻までです」
木崎は机の端に置かれた工場案内を見た。そこには「駅から通勤可能」とある。
「その表現を残すなら、早番にも当てはまるように読めます」
会議室が静かになった。
現場責任者が先に口を開いた。
「早番だけは車か自転車の人が多いです。面接で話しているつもりでした」
「つもりでは、原稿を公開できません」と帆足が言った。
総務担当者は工場案内を手元へ引き寄せた。「駅から通勤可能」の文は、日勤の見学者向けに数年前作ったものだという。採用ページにもそのまま転記され、早番が増えたあとも直されていなかった。
「間違いではないと思っていました」
「日勤だけなら、いまも間違いではありません」と帆足は答えた。「一つの正しさを、全部へ広げると間違いになります」
舟木は三人の間に置かれた原稿を見た。
「では、誰が決めれば正しい原稿になりますか」
木崎は答えなかった。代わりに、三枚の上へ役割を書いた。
勤務条件を決める人。
現場の実態を確認する人。
掲載を承認する人。
舟木は三つの役割の右側へ名前を書いた。勤務条件は総務責任者。現場の実態は各工程責任者。掲載承認は舟木。変更が出た場合は、同じ三者へ戻す。
初めて、三枚の原稿に進行順ができた。
「一人を選ぶ必要はありません。ただ、この三つが空欄のままなら、私たちは書かない」
舟木は総務担当者と現場責任者を見た。
正しい文章を作る会議が、正しい文章を引き受ける人を決める会議へ変わった。
会議室を出ると、廊下の掲示板に古い募集ポスターが残っていた。田名部は立ち止まったが、写真には撮らなかった。いま直すべき原稿の外にも、誰も引き受けていない文章がある。
本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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