連載小説『消える会社、残る原稿』 人間が通した間違い
本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。
火曜の夕方、帆足芙美は古い求人広告のコピーを一枚、机へ置いた。
会社名も地名も黒く塗られている。残っているのは、短い見出しと勤務条件だけだった。
紙は何度も折られ、黒い部分のインクだけが新しい。帆足は元の資料を持ち出さず、今回の確認に必要な箇所だけを書き写していた。それでも、机に置くまでに何度も封筒へ戻した跡があった。
未経験から、すぐに一人前へ。丁寧な研修があります。
「これ、AIが書いたものではありません」
帆足が言うと、小日向は手を止めた。
十年以上前、帆足が人事の仕事をしていた会社で出した広告だった。研修制度はあったが、担当者も期間も決まっていなかった。現場から急かされ、他社の広告にも似た表現があるという理由で通した。
入社した人は、三日目から一人で作業に入り、一か月で辞めた。
退職理由を本人から直接聞いたわけではない。現場責任者が「合わなかった」と報告し、帆足は広告との食い違いを確かめないまま記録を閉じた。そのため、広告が退職の唯一の原因だったとは言えない。
「わからない部分を、いま正義の話に作り替えたくない」と帆足は言った。
「私が書いたわけではない。でも、止められる場所にいて、通しました」
田名部は黒い紙を見た。
「今回の試験に入れるんですか」
「人間の判断を残すなら、人間が間違えた例も必要です」
木崎は、事例からさらに情報を外した。業種、年代、人数、退職理由の細部。残すのは、制度の存在だけで、実施方法を確認せず約束の表現へしたこと。
試験用の問いに変える。
「研修あり」という事実から、教育の質や期間を推測していないか。
小日向は現在の部品メーカー原稿と並べた。AI原案が「専任担当者が丁寧に指導」と書いた誤りは、過去に人間が通したものと同じ形だった。
「人間が見れば防げる、ではないですね」
小日向は、AI原案の停止理由へ「人間確認済み」という印を付ける案を削除した。確認済みは正しさの証明ではない。確認した人、資料、残った未確認事項を記録して初めて、次の判断に使える。
「防げない」と帆足は答えた。「だから、誰が見たかより、何を確認したかを残す」
彼女は黒い広告の余白へ、当時は書けなかった判定を記した。
要停止。担当者、期間、単独作業へ移る条件を確認するまで公開しない。
帆足はその下に、もう一行加えた。
当時の退職理由との因果関係は未確認。
過去の失敗を強く見せるために、わからない事実を補えば、古い広告と同じことになる。
過去の広告は直せない。辞めた人を呼び戻すこともできない。
それでも、AIを責めるためだけの試験から、人間の見落としも測る試験へ変えることはできた。
黒い広告は、試験資料の付録には入れなかった。抽出した問いと、帆足が当時確認しなかった事実だけを記録した。告白を商品にせず、判断の不足だけを次へ渡した。
本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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