第18話 一度で書けた原稿を、止める

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連載小説『消える会社、残る原稿』 一度で書けた原稿を、止める

本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。

火曜の午前九時、AI会社の試験画面に、三職種分の原案が同時に表示された。

小日向が開始ボタンを押してから、二分もたっていない。製造、品質確認、出荷準備。見出しも勤務条件も分かれ、文章の長さまで揃っていた。

画面右上の進行表示は、三つとも緑色だった。未入力項目なし。文体統一済み。読みやすさ適正。警告は一件も出ていない。

「一度で、ここまで来ましたね」

榎並の声がスピーカーから聞こえた。

木崎は返事をせず、製造の原案を読んだ。

入社三か月後を目安に交替勤務へ移行します。

昨日の会議で、三か月は決まりではないと確認したばかりだった。

小日向は原案の横に、確認記録を表示した。AIは「三か月」「交替勤務」「移行」という三つの語を正しく拾っている。間違った言葉を足したのではなく、言葉の間にあった留保を落としていた。

品質確認には、こうある。

専任担当者が丁寧に指導します。

担当は固定しない。丁寧という評価も、会社は約束していない。

出荷準備の原案は、さらに滑らかだった。

自家用車で通勤できる方を歓迎します。

通勤方法は応募条件ではない。

鳥羽は出荷準備の画面を指した。歓迎という短い一語が入っただけで、ページ全体の印象が変わる。早番へ来られる方法の確認が、車を持つ人への呼びかけになっていた。

帆足が三枚すべてに「停止」と書いた。

榎並が息をのんだ。

『条件表には、三か月、教育担当、通勤手段が入っています』

「入っています。でも、確定、目安、実態、応募条件の区別が落ちています」

小日向は生成履歴を開いた。AIは空欄を埋めたのではない。近くにある言葉を、読みやすい約束へ変えていた。

田名部が言った。

「読みやすさが、間違いを見つけにくくしています」

画面上では、完成度が九十二と表示されている。介入回数はゼロ。生成時間は百秒台。

試験の数字だけなら、成功だった。

榎並はすぐに反論しなかった。スピーカーからは、キーボードを打つ音だけが聞こえた。彼女もまた、この原案を社内の成功例として見せる予定だったのだと、小日向にはわかった。

小日向は完成度の横へ、新しい判定を置いた。

公開可否:停止。理由:未確定事項を約束へ変換。

「一度で書けたことは記録します」と小日向は榎並へ言った。「一度で公開できなかったことも、同じ大きさで記録してください」

木崎は三枚を机に並べた。速く完成した原稿を止めるのに、迷いはなかった。

問題は、この停止を成果として舟木へどう見せるかだった。

帆足は停止印の横へ、再開条件を書いた。三か月を約束にしない。教育担当を固定しない。通勤手段を応募条件にしない。赤字は文章の直し方ではなく、会社へ戻す三つの決定になった。


本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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