連載小説『消える会社、残る原稿』 書かない条件を、先に決める
本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。
月曜の午後四時、田名部は部品メーカーの休憩室で、三人の現場担当者へ原稿の作り方を説明した。
今回は取材記事ではない。名前も、語った言葉も掲載しない。会社が決めた条件と、仕事を選ぶために必要な情報だけを採用ページへ載せる。
休憩室の時計は、秒針が進むたび小さく金属音を立てた。三人は勤務の途中で交代して来ており、作業着にはそれぞれ違う色の粉や油が付いている。ページでは職種を分けられても、目の前の人の経験を一行で分けることはできなかった。
製造担当者が腕を組んだ。
「だったら、前に話したことは何に使うんですか」
「会社へ確認すべき項目を見つけるためです」
「俺が夜勤を嫌がっている、とは書かない?」
「書きません」
田名部は、自分のメモに引いた線を見せた。発言は条件確認の入口として保存するが、掲載文へ移す箇所には印を付けていない。相手は線の少なさを確かめるように、ページをゆっくりめくった。
田名部が答えると、相手の肩が少し下がった。
品質確認の担当者は、教育について確認した。
会社は、教育担当を一人に固定せず、習熟確認を終えるまで単独作業にしない方針を決めた。ただし、何日で終わるかは個人と工程によって違う。
「『丁寧に教えます』にはしないでください」と彼女は言った。「忙しい日は、丁寧じゃないこともあるから」
小日向は原稿案から、その言葉を削った。
代わりに書く。
小日向は一度、「教育担当が日替わりです」と書きかけて消した。それも現場の実態ではあるが、応募者に約束する条件ではない。会社が決めたのは、誰が教えても習熟確認前に単独判定を任せないことだった。
習熟確認が終わるまで、単独で品質判定を担当しません。教育期間の日数は固定していません。
出荷準備の担当者は、早番の行を二度読んだ。
開始時刻。公共交通の便が限られる日があること。通勤方法を応募前に確認できる連絡先。
「これなら選べる」と彼は言った。「でも、車が必要だと決めつけないでほしい。近くから自転車で来る人もいる」
書けば親切になるとは限らない。強く書きすぎれば、別の人を理由なく外す。
窓の外で、早番を終えた車が一台、門を出ていった。公共交通が不便という事実を「車通勤必須」へ変えれば、自転車で通える人まで応募を諦める。説明の不足と条件の追加は、反対方向の誤りだった。
田名部は確認表の最後に、新しい欄を作った。
書かないこと。
個人の感想。発言者を推測できる経験。会社が決めていない期限。応募条件ではない通勤手段。
帰り際、製造担当者が言った。
「書かないって決めるのも、原稿なんですね」
田名部は空になった余白を見た。
この案件で最初に完成したのは、掲載する文章ではなく、掲載しない境界だった。
帰りの車内で、田名部は確認表の余白を閉じなかった。空白は情報不足の印ではない。何を本人の言葉として残し、何を会社の条件へ移さないか、確認を終えた跡になっていた。
本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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