連載小説『消える会社、残る原稿』 見せない原稿にも、値段がある
本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。
火曜の午後三時、舟木はまちあい編集室へ来た。
会議机には、AIが作った三枚の原案が伏せて置かれている。窓から入る西日が、紙の端だけを白く照らしていた。
舟木は席に着く前、その紙へ目を向けた。公開ページの打ち合わせなら、原稿は表向きで置かれる。今日だけは、完成した文章が最も危険な資料だった。
「原案そのものは見せてもらえないんですか」
舟木が聞いた。
木崎はうなずいた。
「誤った条件が、社内で別の資料へコピーされるのを避けたいので。代わりに、止めた箇所と理由をお渡しします」
帆足が一枚の比較表を差し出した。
確定していること。未確定のこと。原案が約束へ変えたこと。確認後に公開できる表現。
舟木は「入社三か月後」の行で手を止めた。
「これは、うちでも普通に言っています」
「だから原案にも入りました」と小日向が答えた。「普通に言っていることと、全員へ約束できることが同じかを確認する試験です」
「間違った原稿を見せずに、その制作費を請求する?」
声は強くなかった。けれど、舟木の指は比較表ではなく、伏せた原稿を押さえていた。社内で説明するには、失敗した現物があったほうが早い。その早さが、転用の危険と同じ場所にある。
木崎は見積書の三枚目を開いた。
公開前の確認設計。差戻し理由の記録。再開条件の整理。
「請求するのは誤った文章ではありません。公開しなかった判断と、正しい原稿へ戻るための確認です」
舟木は比較表を最初から読み直した。
工場で原稿を作れば、完成した文字だけが成果になる。止めた文章は失敗として捨てられる。けれど、捨てた理由がなければ、次の担当者が同じ言葉を拾う。
「役員には、原案を見せたいと言われると思います」
「その場合は、誤りの部分だけを見本として示します。公開不可、転用不可と明記して」
木崎は、原案を完全に隠すつもりではなかった。何が危険だったかを説明するための最小限の抜粋は必要になる。ただし、読みやすい完成稿の形では渡さない。誤りと判断理由を切り離さない。
田名部が伏せた紙の上へ、赤い帯を置いた。
公開しない原稿。条件確認のための比較資料。
舟木は帯を見て、苦笑した。
鳥羽が作った帯は、画面でも紙でも本文へ重なる。外せば読めるのではなく、外した時点で管理番号が欠ける。制作物をきれいに見せる仕事をしてきた鳥羽が、今日は使いにくくする設計をしていた。
「見せないためのデザインまで作るんですね」
鳥羽が自席から答えた。
「見せたくなる形で出てくるからです」
舟木は比較表へ署名した。原案そのものではなく、止めた理由を社内確認へ回す。
見せない原稿が、初めて納品物になった。
舟木が帰ったあとも、三枚は伏せたまま保管箱へ入れられた。木崎は箱の表に、納品日ではなく廃棄確認日を書いた。成果物にしたからこそ、いつまでも残さない期限も必要だった。
本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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