連載小説『消える会社、残る原稿』 右半分には、まだ名前がない
本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。
土曜の午後、鳥羽圭は駅前店の向かいにあるベンチから、店の右半分を見ていた。
シャッターは腰の高さまで上がっている。中には段ボール箱が積まれ、白い養生テープで通路の形だけが床に引かれていた。改装中の売場に見えなくもない。けれど、棚を置くための線より、台車が曲がるための幅が広かった。
鳥羽はカメラを鞄に入れたまま、スマートフォンで木崎へ電話した。
「写真は撮ってないです」
『急にどうしたの』
「店の右半分。配送の受け渡し場所になるかもしれません」
電話の向こうで、紙をめくる音がした。
『店長に聞いた?』
「まだです。見えたことと、そう見えたことは別だから」
鳥羽は、床の線をもう一度見た。人の目は、空いている場所に意味を置きたがる。写真なら、切り取った枠の外まで確かめなければならない。文章も同じだと、最近は思う。
月曜の朝、木崎と田名部は店長に会った。
店内のレジはいつもより一台少なく、入口近くには期間限定求人の小さな案内が置かれていた。応募者から届いた質問への回答も、採用ページに追記されている。
「右半分のことを聞いてもいいですか」
田名部が言うと、店長は一度、入口のほうを見た。
「まだ、正式には言えないんです」
木崎は、店長の言葉を待った。
「店を小さくして、残った場所を配送の受け渡しに使う案があります。近くの店舗と在庫を動かすための場所です。ただ、決まったわけではありません」
「今いる方の仕事に関係しますか」
「関係するかもしれません。でも、誰がどの仕事をするかは決められていない」
田名部はメモを閉じた。話を聞きに来たのは、次の記事を書くためではない。公開した求人の言葉が、この店の変化に追いついているか確かめるためだった。
「採用ページには、今の仕事と休業日までの条件だけが出ています。配送の仕事が増える可能性を、今の募集に足す必要はありません」
木崎が言った。
「ただ、決まったときに、別の仕事として説明してください。今いる方にも、新しく応募する方にも」
店長は、ゆっくりうなずいた。
「店が残ると言えば、みんな安心すると思っていました」
「安心できることと、わかることは違います」
木崎は答えた。
店を出ると、田名部が横断歩道の手前で立ち止まった。
「右半分に名前がないから、怖いんじゃないんですね」
「何になるかで、誰の仕事が変わるかが違うから」
午後、鳥羽は編集室の白板に、店の右半分を描いた。棚、台車、通路。写真を使わず、見たものと聞いたことを別の色で書いた。
小日向が、候補先から届いた試験案件の概要を開く。
部品メーカーは、増産のために採用ページを急いで作りたい。募集職種は一つではなく、現場、品質確認、出荷準備と三つに分かれている。舟木は、その違いを一枚にまとめたいと書いていた。
木崎は白板の右半分を見た。
一つにまとめると、説明はきれいになる。
けれど、きれいになったぶんだけ、違う仕事は見えなくなる。
「最初の面談では、職種を一つにしない理由から聞きます」
木崎が言うと、帆足が新しい見積書を持ってきた。
項目の一番上には、前の金曜に決めた言葉が残っていた。
公開前確認・差戻し理由の記録。
右半分にまだ名前がない店で、編集室は次の案件へ持っていく言葉を、ようやく一つ手に入れた。
本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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