【第5話】予定は、条件ではない

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連載小説『消える会社、残る原稿』 第5話

本作品はフィクションです。登場する人物、団体、店舗、サービス、出来事は架空であり、実在のものとは関係ありません。

水曜の午後、帆足芙美は「予定」の二文字を赤い四角で囲んだ。

机の上には、店の従業員から見せてもらった案内文書と、田名部がまとめた三人分の取材記録が並んでいる。窓際の複合機が紙を吐き出すたび、乾いたローラーの音がした。

予定。

便利な言葉だ、と帆足は思う。決定ではないことを伝えながら、読む側には決定に近い安心を残せる。

昔、人事の仕事をしていたころ、帆足もその便利さに寄りかかったことがある。見出しには期待させる言葉を置き、条件の欄に小さく「予定」と添えた。嘘ではない。そう説明して、原稿を通した。

嘘ではなかった。

ただ、親切でもなかった。

「つながりました」

小日向の声で、帆足は顔を上げた。机の中央に置いた端末から、店長の声が聞こえる。その隣には、運営本部の担当者もいる。通話の前に、木崎は相手が運営本部として回答できる立場にあることを確認していた。今日確かめるのは、案内文書が誰を対象にし、どこまで決まったことを伝えているのかだった。

木崎が最初に尋ねた。

「昨日送った確認事項、順番に答えていただけますか」

『はい。案内の対象は、休業日に現在の契約期間が終わる従業員です。現在の契約がその日で終了することを知らせています』

帆足は案内文書の対象者欄と、求人原稿の雇用期間を見比べた。一枚では現在の従業員の契約が終わる日、もう一枚では新しく雇う人の雇用期間が終わる日として、同じ休業日が記されていた。

帆足は赤ペンを置いた。

「再開後の扱いは」

『まだ決まっていません。仕事の内容と時間帯を決めたあと、別途募集と選考を行います。現在働いている方も応募できますが、採用や同じ条件での継続を約束するものではありません』

「今回、新しく採用する人も休業日までですか」

『はい。今回の求人は、休業日までの期間に限ります』

「店長は、再開後も働けるという意味で説明していました」

短い沈黙のあと、店長が答えた。

『残ってほしい、という気持ちはあります。今いる人にも、これから来る人にも。でも、私が決められる範囲と、決められない範囲を一緒に話してしまいました』

言い訳というより、反省に近い声だった。

『本部からは、今の人を優先して考えたいとは聞いていました。ただ、それを、続けられます、と言っていいとは確認していませんでした』

木崎が腕を組んだ。

「それなら、一本の求人原稿にまとめるのは無理ね」

『やはり、掲載はできませんか』

帆足は、案内文書の上に白い紙を重ねた。

これまでなら、できません、と言っていた。条件が確定してから持ってきてください。それで自分の仕事は終わったと思っていた。

けれど、店には休業までの人手が要る。働きたい人にとっても、期間が限られていること自体が問題なのではない。限られていると知らずに選ぶことが問題なのだ。

「今の内容のままでは掲載できません。ただし、掲載できる形にはできます」

端末の向こうが静かになった。

「今回出すのは、休業までの期間に限った求人です。見出しでも本文でも、その期間を隠さない。再開後も続けられるように読める表現は使いません」

帆足は白い紙に、太い線を二本引いた。

「再開後について触れるなら、別の募集と選考になること、仕事や時間帯などの詳細はまだ決まっていないこと、継続が保証されないことを同じ場所に書きます。将来の募集は、条件が決まってから別の原稿にする」

『それだと、応募が減るかもしれません』

店長の声には、困惑が混じった。

「減るかもしれません。でも、再開後も同じように働けると思って応募する人を増やしても、店長は困るはずです」

『……そうですね』

「三人のコメントも、その人が話した範囲だけ使います。再開後に働きたいという希望を、店の約束のようには見せません。掲載前に、本人にも使い方を確認します」

運営本部の担当者が尋ねた。

『現在の従業員への説明は、どう書けばいいでしょう』

「求人原稿の中で、一人ひとりの扱いまで説明しようとしないでください。今いる方への説明と、新しく応募する方への条件を混ぜないことです。前者は、店と本部から個別に伝えてください」

帆足は書いた項目を読み上げた。

「期間。仕事の内容。時間帯。休業日。再開後とは別の募集であること。ここまでを確認できれば、修正版を作れます」

『確認して、今日中に返します』

店長が言った。

『止めるだけではないんですね』

通話が終わると、木崎が同じ言葉を繰り返した。

「止めるだけじゃないのね、帆足さん」

「止めるなら、どこまで戻れば進めるのかも書くべきでした」

「過去形?」

「今日から変えます」

田名部が笑い、小日向は画面の中に新しい欄を作った。赤い印だけだった原稿の脇に、掲載するための条件が並んでいく。

修正版を作る条件はそろった。あとは店側から、その条件を受け入れるという回答を待つだけだった。

帆足は、三人の取材記録を順に確かめた。レジ担当の「条件が合えば続けたい」。惣菜担当の「惣菜が残るなら応募を考える」。夕方と閉店作業を担当する人の「仕事が増えても続けたい」。似ているようで、同じではない。

三人とも、店の未来を語ったのではない。自分が選ぶための条件を語っていた。

「メール来ました」

小日向が言った。

差出人は、榎並沙耶だった。

木崎が本文を開く。画面の白さが、薄暗くなり始めた編集室の壁に映った。

榎並の文章は簡潔だった。今回の修正を今後の品質改善に役立てたい。そのため、AIが最初に作った原案、店での直接取材の記録、修正後の原稿、そして修正理由を提供してほしい、とある。

「向こうも、何が違ったか知りたいんでしょうね」

田名部が言った。

「名前を消せば、渡せますか」

小日向の問いに、帆足はすぐには答えなかった。

取材の前に、三人には採用ページにコメントを載せる可能性があると説明した。使う文面は確認してもらうとも伝えた。

けれど、声や言葉を別の会社へ渡し、AIの評価や改善に使うとは伝えていない。

採用ページに載せることと、作り方を評価する材料にすることは、同じではない。

「提供しません」

帆足は言った。

「少なくとも、今ある確認で出せるのは採用ページに使う原稿までです。取材記録を別の目的で渡すなら、何に、どこまで、どう使うのかを先に説明する必要があります」

「修正稿と修正理由だけなら?」と木崎が聞いた。

「それも、取材した人の言葉が含まれます。切り分けて確認するまでは出しません」

小日向は返信文の入力を止め、添付欄を空のまま閉じた。

帆足は新しい紙を取り出し、中央に一本、縦線を引いた。

左に「掲載」。右に「評価利用」。

そして、同じ丸を両方へ付けないように、二つの欄を離して描いた。


本作品は、AI作家による執筆、AI編集による編集、独立したAI法務部による事前監査を経て制作され、人間のオーナーが最終的な公開を承認しています。

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